採用コンサルティング会社のアチーブメント株式会社で営業や採用などの経験を経て独立し「インサイドアウトマーケティング」という手法を生み出した成瀬さん。新人営業パーソン時代に苦手だった営業の壁をどのように乗り越えていったのか。営業活動をせずともお問い合わせがくる仕組みづくりの秘訣を伺ってきました。
目次
金額を超える価値を出してくれると知っているから頼む
今までの略歴を教えてください
新卒で人材教育コンサルティング会社のアチーブメント株式会社に入社し、主に営業とコンサルタントと自社の採用担当をやりました。7年間勤めた後、自分たちで世の中をほっこりさせるサービスを作りたいという想いで2011年の8月に会社を設立しました。創業当初は社員への給与や会社の家賃などに切迫され、どんどんお金がなくなってしまい、残金3万円まで追い詰められていたこともありました。笑
3万円ってもう次の月越せないですね笑
そうなんです。そんなときに、前職でコンサルタントとクライアントの関係でお付き合いのあった病院の院長に食事に誘っていただいたんです。私は前職のときのお客様を今の会社のお客様にするつもりはなかったので、誘いがあったとしても全部断っていたんです。ですがその院長から「俺は医者だから手術をお願いする先生は選びたいと思う。コンサルティング会社にお願いしたいんじゃなくて、成瀬君と仕事がしたいんだ」と言われて、仕事を受けようと思うようになりました。
それはコンサルタント冥利につきますね!
その後、私から提案をさせてもらったのですが、院長は見積もりも見ずに、「じゃぁお願いするわ」と。「俺は、成瀬君を信頼しているから、金額はいくらでもいい。その金額をはるかに超える価値を出してくれると知っているから頼む」と言ってくれたんです。もちろん会社の窮地を脱した安心感もありましたが、非常に感慨深い出来事でした。
感情を動かすクリエイティブコンテンツを用意する
ほっこりさせるサービスとはなんですか?
感動的なものや面白いコンテンツはバズります。ですが、感動だけだとどうしても弱いんです。面白いコンテンツも同じで、ただ馬鹿で面白くてもバズりますが、蓋を開けてみたら中身が薄いと思えるコンテンツでは意味が無いんです。
面白いけど結局何が言いたいの?というのありますよね笑
そこで、感動と面白さを掛け合わせた「ほっこりエンタメ」であれば反響も良く、多くの人に拡散することで世の中へも良いインパクトを与えられるのでは、と考えて、「ほっこりエンタメ」を作ろうと思ったわけです。
具体的にはどんな内容のコンテンツなんですか?
結婚式のシーンを思い浮かべてください。新婦から両親へ向けた手紙って当人はもちろんですが参列者の方も感動しますよね。参列者にとっては自分に向けた手紙ではないのに感動するんです。なぜかというと、新婦からお父さん、お母さんへの感謝などの”感情エネルギー”が会場内でダントツ強いからなんです。
たしかにすごく揺さぶられます
ですよね。一方、式の最後の新郎新婦から参列者への「みなさん、今日はお越しいただきありがとうございます」というあいさつは、まったく響きません。みなさんの中に自分も含まれているにも関わらずです笑
では、結婚式まで新郎新婦は両親に感謝をしていなかったのか?と言えば、それは違いますよね。「すでに気持ちはあるけど、恥ずかしかったり、機会がないから言語化していない」こういった形になっていない愛情のことを、「潜在愛」と呼んでいますが、その強い愛情を見つけて、言語化し、手紙やツール、エンタメ要素を入れてクリエイティブコンテンツとして世に出すんです。それが世の中のほっこりにつながると考えています。
自分で営業するのをやめました。
コンテンツに注力するようになった背景は何ですか?
営業時代の”どう成果を上げるかを考え続けた経験”が大きかったですね。実はアチーブメントにいた新人の頃、自分で営業しても契約は一切決まらなかったんです。そこで、どうしようか考えた結果、自分で営業するのをやめたんです。笑
思い切りがいいですね!笑
「お客様は新人営業に提案されるより、社長から営業されたほうが成約率はいいに違いない」と思ったんです。なので、お客様と社長が出会う機会を増やそうと考えました。身も蓋もない言い方をしてしまうと、社長を最高のコンテンツとして利用させて頂いたということですね。笑
魅力的なコンテンツがあれば人はファンになっていくというのもそこで学びました。
実際の活動は何をしていたんですか?
社長が登壇する自社開催のセミナーへの集客にだけ専念しました。同僚の営業がテレアポをしている横で、私はひたすらパソコンに向かいFAXのDMを作っていました。夜にFAXを送って、翌朝「重要な書類なので社長に見ていただきたいのですが…」と電話をするんです。他の営業とは異なる手法で集客案内をしていました。すると、セミナーの申込がかなり入るんです。同僚はセミナーに数人しかお客様を呼べないにも関わらず、私だけ30人くらい呼んでいましたね。
その後、どのように成約につなげるのですか?
来場いただく方のサービスへの検討具合などを事前に見極めて、セミナーが終わった後に挨拶などでコミュニケーションをとります。その際にお客様のところへ先輩や既に研修を受講して満足しているお客さんも連れて行き、代わりに興味喚起やサービスの説明をしてもらうんです。当時、私は紹介することに徹し、サービスについて聞かれた時だけ説明をするのが仕事でした。笑
得意分野と不得意分野を分業していたんですね
見込みが高いぞ、というお客様に関しては社長のところに連れて行って紹介していました。「このお客さん、素晴らしい方なんです!」と社長に伝えると、社長は状況を察してお客様に「成瀬はうちの一番のエースなんで信頼してください!是非、今日具体的な一歩を踏み出してください!」と言ってくれるんです。お客様と社長を引き合わせると、社長からの第三者評価で自分の信頼を醸成できる上にクロージングまでしてくれるということです。笑
セミナーに参加いただいた時点で、少なからずお客様は社長のファンになっている状況なので、ここまで来れば断れない空気になっていて、成約になるんです。そのような感じで、私は自分ではセールスせずに、とにかく人の力を借りて私のファンを作るようにしていましたね。
私にしかできないことを
もともとファン作りを得意とされていたんですか?
営業時代は無意識に行っていたのかもしれませんが、必要だなという考えが顕在的になったのは採用の領域で働いているときでした。採用という業務は単に求職者に応募してもらって面接して採用するという業務ではなく、求職者をどのようにして会社や私のファンにしていくかというファンマーケティングの視点が大事なことだと感じていました。ファンになると応募するハードルが下がったり、内定承諾率が高くなるなど良い影響が多くありますから。その経験もあり、ファンにするというアクションは今の私たちの事業の中でも重要な核となっています。
ファン化させる営業とは?
私達はファンマーケティングも営業の一部と考えています。そこで私達が推奨しているスタイルは「インサイドアウトマーケティング」です。内側から外側へ向かうマーケティングという意味ですね。
内側からとはなんですか?
内側というのは自分と取り巻く環境の距離感を指しています。自分を中心に関係性の深い人を並べていくと、まず自分がいて、その外側に家族、友人、知人、お客様がいて一番大外が社会になります。企業とお客様の関係を見ると、最初に来るのは社員や一緒に働く人達、次にどんなことがあっても自社のことを応援してくれるロイヤルカスタマーやエヴァンジェリスト。次が、リピート客で、購入実績のあるお客様、見込み客、リスト客といった順になります。
マーケティングの世界だと、一番外側の見込み客開拓とか、リードナーチャリングと言ったところにお金や時間をかけますよね。でも、ファンマーケティングはその逆なんです。
一般的なマーケティングは間違っている…ということですか?
そういうわけではありません。もちろん、大規模なマーケティングを行う上では重要です。でも、顧客が商品を選ぶ理由を考えてみると、「知人からの推奨」とか「ネットの口コミ」が圧倒的に強くなります。そうであるなら、新規開拓にパワーをかけるよりも、すでに会社のことを良いと言ってくれている方々をもっとファンにして、その人たちが推奨してくれるようにした方が良い、と考えています。
たしかに一番影響があるのは信頼できる方の意見だったりしますよね
そうなんです。なので、パワーを割くのはアウトサイドではなくて、むしろインサイドだと考えているんです。購入しようとしている商品があったとして、それを作っている企業に勤めている社員やその家族が、「とても良い商品だから絶対みんなに使って欲しい」と言ってくれればサービスの良さは伝わりやすいですし、逆に「使わない方がいいよ」と言えば、絶対に買わないですよね。
仰る通りですね!
顧客をよりファン化していくことで、その人が推奨者となり、口コミで拡散し、商品を紹介してくれます。間接的にもウェブページを何度も見ることによってサイトの閲覧時間が伸びSEOが強くなったり、SNSのフォローをしてくれたり、リツイートやシェアをして拡散してくれたりするんです。あとはお問い合わせに対してご提案をさせて頂くだけで「インサイドアウトマーケティング」は完成です。
ファン作りのプロが見るファン作りのプロとは
成瀬さんから見たファン作りがうまい会社はどこでしょうか?
例えば、ライフネット生命さんは非常にファン作りがうまいと思います。ライフネット生命は50年ぶりに新たな生命保険会社として誕生しました。ここでは、保険手数料が高いことにアンチテーゼを唱えて、「保険会社に支払う手数料が高すぎたら、保険料が高くなる。もっと簡単に安く入れるように」と言って、ネット対応の保険会社を作ったんです。
どのあたりにファン作りのうまさを感じましたか?
初期のライフネット生命の戦略は、自分たちの保険がいかに安いかというより、「保険料はもっと安くできる」とか、「ネットで買えば無駄な人件費がかからない」という部分に焦点を当てて戦っていたんです。これは、巨大な保険会社に新しいネット保険会社が対抗するわけですから、マンモスとアリのような話です。こうなると、みんな応援するんですよ。
みんなが応援してくれるんですか?
ここにはポイントがあって、絶対に勝てないと思われると、あまり応援されないんです。「奇跡が起きたら勝てるかもしれない。自分が加担することによって、その奇跡が起こるかもしれない」って思わせることが大事なんです。多くの企業は、自分たちが苦労した話とか、大きな敵に立ち向かっている話とか、そういうことはあんまり見せていないんですよ。「実はその話って見せたり、聞いてもらったりした方がよくないですか?」と思うんです。自分の至らないところとか、強い敵に向かっていくみたいなのは見せたほうが良いです。
確かに発信する企業は少ないですよね
「100人中99人はダメって言うかもしれないけど、このやり方だったら世の中変えられるんじゃないかと思って勝負に挑んでます」って世の中に向かって発信すると、その発信を見た外部の方はそこに自分も関わりたいという気持ちが起こります。そこでマンモスを倒そうとしているアリの姿を応援してくれる人が出てくるんです。なので、そういった情報をWebや動画、プレゼンなどで見せていけると良いと考えています。
共感する人はファンになる
ファン化することがうまい人はいらっしゃいますか?
ZOZOの前澤さんは、ZOZOという会社の話をほとんどしないですよね。彼は天然でファン作りをやっていると言う人も多いですが、とにかくZOZOのことよりビジョンのことを言うわけです。それを聞いて共感する人は前澤さんのファンになるから、ZOZOに対して悪い気にはならないですよ。
確かに応援したい人っていますよね
営業の場面でもそうです。商品説明をするときに、機能的な説明や価格とかだけだと、なかなかファンにはなってくれません。その背景にある自分たちの理念や信念みたいなものが大切なんです。例えばAppleは1998年に「Crazy Ones」というCMを流しました。Youtubeでも見れますが、まさに商品のことなど一言も触れませんが魂が震える動画です。
誰でも応援してもらえる存在になり得るのでしょうか?
応援してあげたいと思わせる何かがある人は共通点があります。イノベーティブであったり、理念・背景といったストーリーを感じとれるであったり、共に作り上げる機会があったなどもそうです。こういった要素を周囲が感じ取れるように発信している人にはファンができます。誰にでも再現性の高いファン作りは実現できるので、そういった要素を要所ちりばめるようにしていくとどんな仕事でも、誰かがあなたの支援をしてくれるはずです。
まとめ
営業という仕事についてもすぐに売れる人たちばかりではありません。ですが売れないからといって売れないままで良いわけではありません。成瀬さんのように諦めずに自身の取り柄を活かし、周囲を巻き込んで成果を上げる方法もあります。是非、自身と周囲の環境とのシナジーを発揮できるように今から何ができるかを考えてみましょう。