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【後編】カスタマーサクセス成功のヒントは『ルーティーン化』~100社回って分かった顧客が製品をうまく使えない理由~株式会社フレイスリー 前田考歩氏(写真左)と後藤洋平氏(写真右)

カスタマーサクセス前編では、カスタマ―サクセスの潮流からカスタマーチームとして大切なことなどを伺いました。中でも導入したサービスをお客様のビジネスの成功に結び付けるためには「共通化しなければいけない価値観」や「組織体制」、「お客様に求められていること」などが重要であったことがご理解頂けたかと思います。そしてカスタマーサクセス後編は、より実践的なテクニックの話を提供できればと思います。

話を聞かせて頂くのは前回に引き続き、前田考歩さん(写真左)と後藤洋平さん(写真右)です。前田さんは株式会社フレイスリーにてビジネス向け動画制作サービスのプロデューサーを担われている傍ら、docomoイノベーションビレッジにて、カスタマーサクセス勉強会を開催されていらっしゃいます。一方、後藤さんはHR領域のサービスでカスタマーサクセスとして多くの企業の導入支援を担当されていらっしゃいます。このようなカスタマーサクセス経験が豊富なお2人にテクニックについて伺ってきました。

カスタマーサクセス成功のためのテクニックはありますか?

※1プロダクト・マーケット・フィット (PMF):顧客を満足させる最適なプロダクトを最適な市場に提供している状態を指します。

後藤:

前提として、カスタマーサクセスの成功は製品のアーキテクチャで決まると思っています。他社製品との競合、顧客の要望とのミスマッチ、不具合や障害等のトラブル、新機能の提供、SaaSはサービスの提供過程で、様々な出来事が待ち受けています。そこで問われるのは拡張性や保守性、機動性、柔軟性等、外からではぱっとは目につかない、製品の根幹の部分です。その領域では、営業や顧客対応担当者がいくら頑張っても限界が訪れる訳です。あくまでそういった前提というか、制約条件がある中で、ですが、それでも営業サイドの人間がやるべきことは多々あります。まず中期的には導入リードタイムの短縮や、機能を活用できるように設計し直すためのプロダクト・マーケット・フィット(※1)をいかに実現するかという課題があり、もう一点、短期的には日々の営業活動や導入時の支援をいかに標準化するか、という課題です。

最初の導入部で気を付けるポイントは、お客様が利用したいという気持ちになった時に、すぐ利用が出来る状態を作ることです。

導入時すぐに利用できる状態にするためにできることして、訪問や電話で説明できる人を教育することや説明書を作成しお客様に配布するといったことが考えられますが、説明できるスタッフの育成のために教育コストも発生しますし、説明書をイライラしているお客様が読むかどうかも分かりません。

導入後になるべく早い段階でお客様に利用して頂くためには、簡単に利用できるための最良の設計にしておかなければなりません。デモ画面利用から本番環境での利用開始までの手続き、更には使い方の解説動画閲覧など、お客様が製品を利用せずに離脱してしまう要素を無くし、誰しもが迷うことなく利用できるように簡易されているかどうかが大事です。製品を提供する側は、どうしても機能や価格といった要素にフォーカスしがちですが、(もちろんそれはとても大事なことですが)具体的な提供ステップがベンダー側の都合に支配されてしまってはいけません。

そして、カスタマーサクセスチームの「標準化」も重要になります。お客様の製品の導入目的は違えど、どのようなケースでどう関わるのがベストか、その判断軸やサポートの手法などを標準化させていかないと効率は高まりません。カスタマーサクセスの推進における重要ポイントである「初回利用の簡易化」と「標準化」がなされていない動線のために、多くの企業でまだまだ問題を抱えていると感じます。

では、この「初回利用の簡易化」「標準化」の仕組みができていない企業がどのように設計をするべきか。その答えは、実際に利用している企業やお客様、そして製品に対する生の声を聴いている営業からフィードバックを受けることを推奨します。これらのフィードバックはカスタマーサクセスの設計だけではなく、製品開発の良いフィードバックになるかもしれません。先ずは、こうしたお客様の声の中でも、カスタマーサクセスや製品の拡大販売に繋がるような情報を取捨選択して取り入れて行きましょう。この製品の拡販とカスタマーサクセスの最適な推進の目指すところは以下にあります。

  • ルーティーンワークとして対応できるようにする
  • プロジェクトでの対応としない状態にもっていく

という2点の考え方が重要です。ルーティーンワークは、販売行為が標準化されていて、お客様が導入した際にスムーズに利用出来るという状態を言います。一方、プロジェクトは販売行為が標準化されておらず、お客様が導入した際にすぐに利用することが出来ず、カスタマーサクセス組織が「このケースはどうすれば良いのだろうか」と1つの問題に対して一喜一憂してしまう状態を言います。もしプロジェクトになってしまっているとしたら、そのサブスク製品はまだ立ち上がり期なので、標準化をしていくことが重要になってきます。毎回、同じやり方で売れていくという状態が整っていれば、事業成長も早いですよね。

テクニックの他にも大切なことはありますか

前田:

「カスタマーサクセス」というニックメータ著書の書籍はご存知ですか?その中にカスタマーサクセス成功10原則があるのですが、その1つ目に「正しい顧客に販売せよ」という内容があります。先程、後藤さんが仰っていたプロダクト・マーケット・フィットにあてはまると思うのですが、本当に正しい顧客かどうかは1度試しただけでは正直、分からないですよね。

SaaSでアプリを作成出来るサービスを運営する株式会社ヤプリの庵原さんがSaaS TOKYOというイベントでプロダクト・マーケット・フィットについて話されていたのですが「ヤプリの場合、最初はゲーム攻略のためにアプリを作るニーズがあるのではないかと考えてゲーム業界に当たってみて最初いくつか売れた。でもその後が続かないということで、次に当たってみました。だけどこれは全然売れませんでした。そこでまずいと思いながら次に当たってみたのがファッションだったんですね。ここでようやく期待していた反応があり、そこからクーポン機能を付けたりとか開発を重ねて今に至ります。」という内容でした。

このお話を伺って、いかにプロジェクトを早く回し、正しい顧客を見つけて事業を成長させていくのがキモなのだなと思いました。

カスタマーサクセスがうまいと思う会社はありますか?

※2 プロジェクト譜 (プ譜):「プロジェクト譜」音楽家には楽譜が、棋士には棋譜があるように、プロジェクトリーダーはプロジェクト譜(プ譜)を作成します。プ譜の作成についての詳細は御二人の著書 【予定通り進まないプロジェクトの進め方】をご覧ください。

※3 サジェスト:「予測変換」を指します。 検索エンジンやネットショップなどの検索欄に キーワードを入力したとき、そのキーワードと関連性の高い キーワードが自動的に表示されることを指します。

前田:

HTMLメールの配信サービスを提供しているベンチマークイーメールというサービスはすごく上手いですね。本国はアメリカで日本メンバーは7人~8人程が在籍しているのですが、ほぼ全員がカスタマーサクセス担当者なのです。

写真は私が以前ベンチマークイーメールさんを取材させてもらって作成したプ譜 (※2)で、同社のカスタマーサクセスを構造化したものです。それぞれの役割を見てみるとサービスを日本人に合わせて設計するローカライズ、顧客要望への対応、ワークショップの企画運営、コミュニティの運営管理みたいなのを全員がカスタマーサクセス要員として分担されているということでした。彼らのカスタマーサクセスは「お客様がHTMLメール作成を行うにあたり、息を吸うことと同等レベルで習慣化して使えるようになる」という目的を描いていました。

例えば、彼らが実際に取り組んでいるカスタマーサクセスの設計を紹介しましょう。

個人的なつながりで直接営業に「教えてほしい」という要望が来ても対応するというということを無くせないか?と考えているのです。その代わりお客様がメールを作成する時に生まれてくるであろう疑問を想定し、あらかじめサジェストを掲示できるようにプログラミングしておくのです。そうするとお客様もつまずく前のタイミングで「注意すべきタイミングだ」ということが察知できるので、スムーズにメール作成ができるようになります。この設計で重要になるのが、「お客様がどこでつまずくのか」を検知することです。同社はこれを分析するためのツールを持っていて、これがカスタマーサクセスの設計にすごく活きています。

例えば、先に挙げた「初回利用の簡易化」「標準化」という観点では、分析システムとステップメールを有効活用して対策を図っています。同社の製品を登録したお客様が、導入初期で使い方や疑問点で良く挙がってくる質問を予めピックアップしておき、導入3日後に「良くある質問集」として自動でメールを送る運用になっているのです。加えてどういう業種、どういう用途、どういう規模の方々が自社のサービスにあっているのかなどの検証もしています。まさに標準化されていてどこにも無理がないです。ただ1つだけ難しい点は、開発が海外なので日本で機能を改善することができない点でしょうか。しかし、開発が遅れることを見越して、現地でも直ぐにできるオンラインセミナーの実施や資料でのサポートなど、できることを全力でサポートしている体制も素晴らしいと思います。

他の企業の真似をしても同じ結果は得られない

後藤:

ベンチマークイーメール社は、お客様がメール作成を息吸うのと同等レベルで使えている状態を目標に設定していることが素晴らしいですね。ベンチマークイーメール社のお客様の最終成果物は「メールを送信してリードを獲得する」ということだと思うんですけど、正直リード獲得を実現する手法は別にHTMLメールに限らない訳ですよね。ですがお客様の最終成果物であるリードの獲得というゴールに向けて、自社プロタクトの目標を組み込んでいることが、カスタマーサクセスの目標としてはすごいです。ですがこれもプロダクトがあって今の体制が作れるという話なんですよね。

前田:

そう!そうなんですよ。だからあの構造をそのまま私たちのプロダクトに当てはめようとしても上手くいかないですよね。システムを入れて、FAQもステップメールで送るという一連の構造を真似してもうまくいかない可能性があるんです。

後藤:

カスタマーサクセスはプロダクトにあったやり方でなければいけないのでひとつひとつ手作りしていかなければいけないんですよね。私が入社当初に最初にやったことは導入がうまくいかなかった会社を100社回って話を聞いたことです。お客様はプロダクトを使えてないからむしろお怒りなんですけど、そこに飛び込んでいく勇気だけは必要でしたが(笑)、データベースの再構築をしながら回って、情報を収集します。結果的には自分が自社のプロダクトの一番のユーザーにならないといけないんです。

前田:

そうそうそう!本当そう!自社の一番のユーザーになることは本当に大事です。

後藤:

様々な企業に使えていない理由を聞く仕事は結構、面白かったですけどね!最初にも伝えましたがカスタマーサクセス部と営業部で役割を分けてはいけないんです。考え方としては、”マーケティング&セールス&コンサルティング”が「カスタマーサクセスを行う」というのが正しいのだと思います。「カスタマーサクセス部門が単独でカスタマーサクセスを行う」という形をとろうとすると、きっとそれはカスタマーサポートになってしまうと思います。

前田:

ですのでベンチマークイーメール社のように様々な部署が絡み合ってオンライン、オフラインやテクノロジー、ヒューマンタッチを使い分けてカスタマーサクセスのツジツマを合わせていることが本当にすごいと思います。お客様の果たしたい目的はどうなっていたら成功なのか、自社のプロダクトがどうなっていればお客様のビジネスを成功に導けるのかを部署間、担当者間でも握っていかないといけないですね。戦略を立てて原則に照らし合わせて推進するということが何よりもカスタマーサクセスを行う上では大切な気がします。

最後、御二人からのメッセージ

カスタマーサクセスとは何かをお二人に聞いてみました!

後藤さん(写真左):カスタマーサクセスとは「誠心誠意」

この会社と取引しようと思うのに大切なことはその会社に誠意があるかないかだと思います。ですので最終的にはお客様に対して誠心誠意対応出来るかが大切なところだと思います。

前田さん(写真右):カスタマーサクセスとは「ベンダーtoメンター」

決して御用聞きではなく、お客様のビジネスとのパートナーとしてコミット出来るような存在という意味でメンターであるべきだなと思っています。カスタマーサクセスについての貴重な話をありがとうございました。

また御二人の著書「予定通り進まないプロジェクトの進め方」はこちらから購入することが可能です。

予定通り進まないプロジェクトの進め方 (著)前田考歩/後藤洋平  

 

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