株式会社イードのメディア事業本部 副本部長である森元行さんは、最初は数字が出ない営業マンでした。自分に求められていることを自覚して努力を重ね、ブレイクスルーに成功します。自社のプロダクトを愛す熱量と、情報から仮説を導くロジカルさで、クライアントにどこまで寄り添えるか。そんな森さんのワークスタイルを、株式会社セレブリックスの今井晶也との対談で掘り下げます。
目次
領域に特化した約50メディアの広告セールスを統括する
今井 株式会社セレブリックスの今井晶也です。まずは森さんの今のお仕事からお話いただけますか?
森 株式会社イード(以下イード)に勤めております森元行と申します。弊社はインターネット企業で、「メディア事業」「リサーチ事業」「メディアコマース事業」の3事業を柱にしています。私は現在、メディア事業本部を統括する副本部長をやっています。メディア事業本部では、主にニュースメディアを運営しています。自動車、ゲーム、アニメ、映画などの専門メディアを約21ジャンル57メディアほど抱え、領域に特化させているのが特徴です。たとえばゲーム領域であれば、コアゲーマー向けもライトゲーマー向けもあります。いわゆるマスメディアではない、1万人に読まれる記事ではなく、ひとりの読者の人生を突き動かすようなメディアづくりをしたいと考えていて、将来的には100メディアまで伸ばす予定です。
今井 メディア事業本部の中での営業というのは、どのようなかたちで仕事をするのでしょうか?
森 各事業部の中に編集、セールス、エンジニアの3つの役割の人間がいて、チームを編成しています。セールスの人間は、自分たちが運営しているメディアの読者にリーチしたい企業にバナー広告や記事広告をセールスするのが主な仕事です。最近では、動画広告も企画制作から請け負うことがあります。
難易度の高い営業で数字を上げられなかった新人時代
今井 もともと、営業がやりたくて営業の仕事をはじめられたんですか?
森 いえ、もともとは記者になりたかったんですよ。それがかなわず、2011年にIT企業に入社しました。いわゆる広告代理店と向き合う、ゴリゴリの営業でした。当時は担当する領域がかっちりと決められていて、サイバーエージェント、オプト、セプテーニといった専業ネット代理店様を担当していました。私はぜんぜん売れていない営業マンでしたね。冗談抜きでクオーターの受注が0円のこともありましたよ。
今井 なぜ、そこまで苦戦されていたんですか?
森 私の担当は、それまで誰もやっていなかった難易度の高い領域でした。しかも、新卒で入社したばかりで付き合いもない。会社としては、「新卒にちょっとやらせてみようか」という感じだったのではないかと思います。毎週『タイアップ新聞』みたいなものを作って、代理店内で「森です!」と声を掛けながら全員に配るようなことをやっていました。あとは、外の喫煙所でたばこを吸いながら、知っている方が来るのを待つとか。
今井 けっこう泥臭い営業をやられていたんですね。今をときめくメディア運営や、いろんな会社と業務提携をしている森さんも、営業の最初は実績が上がらず、苦労をするところからのスタートだったのですね。
森 当時は何も残せませんでした。そう言ってしまうと怒られてしまうかもしれませんが…。当時の私は、主語が全部「自分」でしたね。「どうあれば私の数字が達成できるのか」「どうやれば私が担当しているこのメニューが売れるのか」という感じです。
マーケッター的に業界を見渡すプロデューサーに
森 2013年4月に、教育メディアをやりたくてイードに転職したんですが、なぜかゲームメディアの担当営業、プロデューサーになりまして。
今井 ゲームには、もともと興味はなかったんですか?
森 私のゲーム経験はPlayStation 2止まりです。ゲーム業界はさっぱりわからない、伝手もない状態でした。ゲーム自体は社内に大勢いるゲーム好きなライターさんや編集者から教えてもらうことにして、僕はあくまでもゲーム業界のマーケッターという立場で業界全体を見渡そうと、考えを変えました。
今井 営業で成果を出すためには、商品知識よりも、マーケットや市場全体の動きを押さえて、お客さんのビジネスをどうやって成功に導くかというプロデューサー的な視点が大事ということでしょうか。
森 そうですね。弊社のセールスの人間にはそこが求められます。もちろん、決まったバナーや記事広告を売って収益をあげることも大事です。加えて、プロデューサーとして編集長や編集者と話し合いながらビジネスモデルを作りあげていく感じですね。
今井 イードでの営業の成績は当初、いかがでしたか?
森 入社して3ヵ月くらい数字が上がりませんでした。新規の契約や飛び込み営業に加えて、広告代理店や以前から付き合いのある企業の問い合わせ、他の営業マンが忙しい時に手伝うなどして数字を積み上げようとしていました。そんな時に、当時の編集長から「何をそんなに焦っているのか。君には新規や難易度の高いところをやってもらいたいから、そんな細かい案件はやらなくていい。すぐに数字にできないのはこちらも理解しているから、やり続けろ」と言われまして。その言葉を聞いて、とりあえず自分が求められていることをちゃんとやろうと気持ちを切り替えました。
スピード感と想像を超える提案が未来を拓く
森 ある大手ゲーム機メーカーに着目しました。当時の弊社は取引どころかパイプもない状態だったので、広報の方と関係を作るところからはじめて。ある夜、その広報の方から電話がかかってきたので、「何か案件はないですか」と尋ねたら、ちょうどキャンペーンのプロモーション選定をやっていると教えてくれたんです。すかさず、「今から企画を作って提案したいんですが、可能ですか」と食いついて。電話を切ってすぐに、編集部の人間に一斉に連絡を流して相談しました。一晩で企画を仕上げて翌朝に提案したら、クライアントは驚いて「試しにやってみましょう」と乗ってくれまして。それで書いた記事が非常にバズって、効果も良かったんですね。結果、今では弊社のゲーム事業でかなり大きいクライアントになっています。
今井 ここぞというところでスピード感のある対応をするのは、僕は営業にとって非常に大事だと思っています。森さんも仕事のスピードが速いという印象を受けるんですが、そこは意識していますか?
森 今は、あまり意識していないですね。ただ、溜めこんでおくのがすごく嫌なんです。返信はすぐにほしいじゃないですか。だから、僕が分かることはその場ですぐに返すようには心がけていますね。
今井 1日で提案を仕上げた件は、クライアントの期待値を超えたというのがポイントですよね。クライアントの立場からすると、新しいところに懸けるより、ある程度反響を予測できるいつものところのほうが楽です。だからこそ、そこを超える提案ができるかどうかは重要で、それこそ営業マンができる差別化ではないかと思います。
森 その件については、本当に運が良かっただけと自分では思っています。これも感覚的な話になってしまいますが、ここを取ったら次に絶対繋がるだろうというのが何となくわかるんですよね。もちろん、過去の経験も踏まえてですが。マーケットの動向や過去の記事を追いかけていると、「このキャンペーンは本当に気合を入れてやるだろう」というようにクライアントの意図が見えてくるわけです。この案件だけ見たら収支はトントンかもしれないけど、きちんと成果を出してクライアントから信頼してもらえれば、今後のビジネスも一緒にやっていけるということは考えています。
情報を集め、分析して仮説を立てるうちに仕事が“自分事”になる
今井 押さえるべき点を見分ける目や感度が重要になってきますね。そのためには、事前準備や仮説構築力、情報収集力が必要ということでしょうか。
森 おっしゃる通りです。私は、記事をとにかくよく読んでいます。自社メディアの記事はもちろん、他社のメディアもそうですし、経済誌も読み漁り、業界の全体像とクライアントの現在のポジションを理解して、自分なりに仮説を立てています。そうすると、「こういうポジションを取りに行こうとされていますよね。弊社はこういうことでお手伝いできますよ」という、一歩先んじた話ができます。
今井 突き詰めると、森さんの営業の中で一番重要になってくるのは“情報”ということでしょうか。
森 情報も重要ですが、いかに“自分事”にできるかが重要だと思っています。クライアントに会って要望を聞きながら、一方で自分なりに情報収集してクライアントのポジションもきちんと理解しておく。そうすると、「自分がクライアントだったらどうするか?」というふうに、自分事として捉えられます。そこは意識していますね。先方の要望を「できます」「できません」と返すだけの営業は、求められていないんじゃないでしょうか。私はクライアントも広告代理店も“パートナー”という認識でいます。発注者側が強いという現実はありますが、一緒にプロダクトやサービス、キャンペーンを盛り上げていきましょう、というスタンスは崩しません。
今井 僕もメディアに発注する側なので、非常によくわかります。営業マンの専門知識を生かして、たとえば「このメディアではなく、こちらに出したほうがいいと思います」「今はバナー広告じゃなくて記事広告にしたほうがいいですよ」というふうに、僕の想像を超えた提案をしてくれてはじめて外部にお願いする意味が出てきます。森さんがおっしゃるように、まず情報を圧倒的に集めて、その情報を元に自分事化して相手の要望を超えるような提案ができるかどうかが、選ばれ続けるポイントなのかなと感じますね。“情報”と“自分事化”以外に、森さんが営業で大事にしているキーワードはありますか?
森 営業はどうしても、受注して納品したらOK、となりがちですよね。私が一番大事にしているのは、レポーティングです。世の中のサービスやプロダクトは継続的に収益を最大化していくモノが多いですよね。そこを一緒にストレッチさせていこうと意識しているので、施策が終わった後のチェックと次のアクションをどうするかという部分はかなり気合を入れています。もちろん、進行する中でディレクションをうまくやるとか、いい記事を書くということは大前提です。
大型案件は徹底的なコミュニケーションとパートナー目線で信頼を積み上げていく
今井 最後に大型案件や新規の難しい案件を獲得する時に意識していたことがあれば教えて下さい。
森 大前提として、イードのメディアはまだまだポテンシャルがあると私は思っています。うちのメディアに発注しない理由はないくらいに思っていて、自社のプロダクトを非常に愛しているんですね。その熱量をベースに、弊社のメディアがどれだけすごいのか、一緒に組んだらどういうことができるのかを話すようにしています。
今井 大型案件は、最初に出会ってから話がまとまるまで、長い道のりになります。そこでのリレーションのとり方で意識していることはありますか?
森 博報堂と業務提携した「カテゴリーワークス Mobility」というプロダクトを例にあげると、2016年11月にスタートして、プレスリリースを打ったのが2018年12月で、丸2年かかりました。長かったです。最初は通常の案件の相談だったんですよね。その時に、当時弊社の中で出ていた、データを使ったメディアのマーケティングはもっとできるんじゃないかという話を先方にぶつけたところ、面白がってくれまして。テストやフィジビリティ(実行可能性調査)はずっと続けていました。この取り組みに関しては、将来的に大きいビジネスになると感じていたので、今はお互いにリソースを出し合ってやっていきましょうという気構えでした。もちろん、先方にとっても、弊社にとってもメリットがなくてはいけません。無理な値引きを依頼されたとしても、「ここまではできるけど、ここからは無理です。それでやってもお互い意味がないですよね」という具合に、臆せず徹底的に対話するようにしていました。
今井 徹底的なコミュニケーションと、ここでも先ほど森さんがおっしゃっていた“パートナー”という考え方が生きてきますね。
森 あと私は、周りによく相談します。社内にいる各ジャンルのプロに「こういう案件があるんだけど、どういうものが今、読者に刺さる?」というように、かなり相談しますね。自分ひとりで何とかしようというのは、一切ないです。そしてやっぱり熱量がないと、何でも続かないと思うんですよ。それも結局、自分事化と繋がってきますね。自分事化できれば熱量を持って仕事に取り組めます。そこが最終的には重要ですね。
まとめ
成果に追われても焦ることなく決められたミッションやり切れという上司からのメッセージがあり森さんの営業は成功し始めました。顧客の期待を超えるスピード感や情報を活用した提案を用いて、これまで多くの顧客との良好な関係性を築いています。成功の秘訣はどんな情報も自分事化して、一歩先んじた提案でした。是非、情報を活用して一歩先んじた営業パーソンを目指してみてはいかがでしょうか。