営業のヒントはここにある。
トップセールス体験シェアメディア

理想ドリブンが生み出す仮説思考力~freee株式会社 IPO事業部マネージャー 鈴木眞理さん~

仮説思考はビジネスの世界でどの職種においても必要とされる能力です。特に営業マンは利用頻度も高く必須で求められる能力でしょう。しかし、仮説思考といっても情報収集の方法から仮説の使い方まで状況によって方法は異なります。そこで今回は、クラウド会計ソフト「freee」を提供するfreee株式会社でIPO事業部マネージャーとして活躍する鈴木眞理さんに、キーエンスやfreeeで培った「営業活動において欠かせない仮説思考のあり方」を教えて頂きました。

会社が変われば求められる仮説も変わる

これまでの経歴を教えてください。

新卒でキーエンスに入社し、営業として工場向けに製造工程を自動化するサービスの提案をしていました。当時のキーエンスの営業スタイルはTHE MODELのような分業制ではなく、自分でアポイントを調整して商談、最終的に顧客フォローまで担うといった設計でした。

仕事のサイクルもおおむね決まっていて、1営業日で2日分の商談に相当する12~14件のアポイントを獲得したら、2日間は外出し、アポイントを取った企業に訪問・提案をするという感じでしたね。キーエンスではこういったサイクルをハイスピードでこなしていくので、スピード感のある営業に対しての耐性はすごく付きました。

その他に学びはありましたか?

他には仮説思考力が磨かれたと思っています。キーエンスでは外出する際に上長に対して、訪問前にはどんな目的で行くのか、訪問後にはその結果を報告するというルールがあります。上長へ伝えた訪問の目的が曖昧であれば、不明瞭という判断となり外出できません。私自身この目的の報告に苦労し、「俺がお客さんだったらそんな話聞きたくない」というようなツッコミを毎日のように受けていたので、寝る前とか移動中は次の訪問は何をしに行くんだっけという事ばかり考えてました。

この何故訪問するのかという目的が仮説になります。そのお客さんの課題を解決でき、契約いただける可能性が少しでもあると思っているからアポを取っているはずで、その課題や解決方法を上長が理解できるように言語化する作業は、仮説思考を身につけるトレーニングになります。また訪問後の報告においては仮説があっていたかの検証になります。そういった環境での経験があったからこそ、今でも使える仮説思考力が身に付いたと考えています。

ですがキーエンスを退職後、SAPに入社してから営業の環境は大きく変わってしまいました。キーエンスでは商材単価がそこまで高額ではなく、営業手法も型化されていたので行動量をこなしているだけで目標から大きく乖離を生むということはありませんでした。

一方、SAPでは大企業に向けて億単位の商材を提案します。更にエンタープライズ向けの部署では営業1人あたりが担当できるターゲット企業も10社程度ということもあり、1社に対してより深い仮説が重要になってきます。事前準備では、お客様の中期経営計画書や財務諸表を読んでどんな課題があるか仮説を立て、その話は誰にアプローチすべきかを考えます。

アプローチすべきターゲットは外資のエンタープライズ向けIT企業がよく使うTAS(Target Account Selling)という手法で組織図を作り、その人は革新的か自社に好意的か、誰と誰が仲がいいかなどの情報をマッピングして会うべきターゲットを明確にします。

【●●株式会社の●●事業部の●●部長】まで落とし込んだ上で、それぞれに向けて仮説を立て、プランを作成し訪問していました。

仮説思考を進める最初のステップは「相手と自分の目的」を明確にすること

対象者までを会う前から明確にする必要があるんですか?

あるんです。なぜなら、会う前から会う人との目的を明確にする必要があるからです。SAPのような大企業と密に進めていく営業スタイルには、1社1社カスタマイズが必要です。そして、カスタマイズを進めるにあたり、最初に必要な工程が「双方の目的の仮説立て」となります。

よくWin-Winといいますが、これは自分にとって価値が低いけれど相手にとって価値が高い物を提供し、相手にとって価値が低いけれど自分にとって価値が高い物をいただくという不等価交換が成立した状態なのでそれが何かを考えます。

考えるべきことは、まず長期的な面でターゲットの企業と自社がどうなっていたいか、短期的な面では今回の訪問をどうしたいか、この2つです。双方の目的は、自社やターゲット企業の状況、相手の立場によって変わってきます。

例えば、自社の事業フェーズが、売上を取りに行かなければいけない状況であれば、受注数の増加や、売上の最大化のための方法を考えますし、立ち上げフェーズで導入企業の数が少ない場合は、シンボリックな事例になるような企業に値引いてでも提案します。このように、まずは自社の状況と目的をきちんと把握することが重要です。

次にターゲット企業がシステムを導入する目的についても考えなくてはいけません。

決められた予算内でとりあえずシステムを導入したいのか、それとも、導入することによってビジネスを効率化して人件費を削減する事が最優先なのか、また目の前の担当者は今回の導入で何を成し遂げたいのかと、仮説を立てていき、ターゲット企業は何を大事にしていて何を大事にしていないのか優先順位を考えます。

この双方の目的を考えると、ターゲット企業と自社、双方にとって価値が高いもの、逆に、価値が低いものなどが見えてきます。この目的を想定して双方で価値が高いものを一致させる行動を行います。

双方の目的が定まってきたら次はどう進めますか?

具体例としてfreeeの場合で少しお話しします。まずターゲット企業から経理を減らして人件費を削減したいという相談を受けたとします。

その際、いきなり「人件費を削減するためには」と考えるのではなく、そもそも何故人を減らしたいのかと俯瞰して仮説を立てます。人を削減すれば、コストが下がり利益が上がるという結果に結びつくと思います。

ですが、人件費を削減してコストを下げるよりも、更に人を増やして売上をあげることが、ターゲット企業にとって良い方向である可能性もあります。ですので、一度俯瞰して自社サービスを抜きに客観的に考え、ターゲット企業がやるべきことは何なのかを準備することが大切です。そうすることで、より、ターゲット企業の本質に寄り添った仮説を立てることができるのです。

俯瞰的に考えた結果、人件費を削減するのが一番効果が高く、実現性がありそうだと整理できたとします。ですがこのままだと漠然としているため、次のステップで更に論点を絞っていきます。

この場合だと、人を減らせない要因は何なのか。この目的に紐づく仮説を深掘りします。

  • ・属人化しているからでは?
  • ・手入力の作業が多いのでは?
  • ・重複した作業をしてるのでは?

この様な何故を何回も繰り返してどんどん分解していき、どこにボトルネックがあるのか、そして、freeeを導入することでそのボトルネックを本当に改善できるのかどうかも含めて論点を絞り込みます。

俯瞰して考えるためにはどのような情報をもとに想定していますか?

ウェブサイトなどはもちろんですが、上場企業の場合は財務諸表等も確認します。同業界の競合他社と比較して、売上が時系列でどう推移しているかなどをグラフ化したり、ビジネスモデルを図式化して確認します。そうすることで業界全体が落ち込んでいるのか、その企業だけが落ち込んでいるのかなど課題が見えてくるんです。

仮説を立てていくステップまとめると、

  1. ①ターゲット企業と自社、双方の目的は何なのか
  2. ②ターゲット企業が本当に実現すべきことは何なのか
  3. ③その目的が実現出来ていない要因は何なのか

この3つを順番に考え、深掘り、自分なりに答えを見つけることです。

それが、あなたの仮説です。

1日6商談するキーエンス時代もそこまで考えられていましたか?

キーエンス時代は1社1社ここまでの深くの仮説を立てるとなると時間が足りません。ですが違う方法で効率的に仮説を立てていました。

当時は製造業の顧客がメインでしたので、形は違えど、とある企業が抱えている課題は、他の企業も抱えていることが多かったです。そのため1度出てきた課題や解決策を他の企業でも使えるように「人材不足」「コスト削減」のように抽象化し自分の中で整理していました。

その整理した情報を、別の企業との商談で使います。例えば、「よく●●でお悩みだという話を伺うんですけど、御社はいかがですか?」と聞いてみると「そういえば」という気づきや、「よく分かったね」といった同意を得られることがありました。

ただ、この方法は効率的ではあるものの、まずは自分で仮説を立て、トライ&エラーを繰り返さないと抽象化した課題も蓄積しづらいです。ですので、やはりまずは自分で仮説を立て、どんどんぶつけてみることにチャレンジしてみて欲しいです。

苦手でも、まずはやり続けることが重要

商談前にここまで仮説を立てるんですね。

そうですね。最初は大変だと思いますが、仮説さえ立てられるようになればゴールはすぐそこです。一連の仮説を現場で顧客へ確認し、まずは顧客がやらなくていはいけないことを明確にすることができれば後はシンプルです。

顧客から課題を解決したいと合意をもらい、それがfreeeで解決できるのであれば、同様の課題を抱えている企業の課題解決事例や、何故freeeを導入すると課題解決できるのかといったことを伝え、サービスのデモを活用しながら話を進めていくだけです。

営業経験が少ないと難しいようにも思いますがどうでしょうか?

そうですね。経験のない人がいきなり仮説を立てるというのは難易度が高いと思います。ですが最初から正しいものはできないので、まずはやり続けるということに尽きるかと思います。

仮説思考力を鍛えるために、freeeで経験の浅いメンバーに行っていたトレーニングがあります。まずは、1枚のシートにターゲット企業と自社双方の目的などを書き出し、Bestケース、Goodケース、Worstケースごとの進め方のシナリオを作り、ある程度の経験がある先輩や上司に確認してもらいフィードバックをもらいます。

そして、フィードバックしてもらった内容を踏まえて実際に訪問し、シートを踏まえて仮説を顧客にぶつけます。そうすることで、自分の立てた仮説が正しかったのか否かを振り返ることが出来るので、徐々に仮説の精度も高まっていきます。仮説を立てるのが苦手という方はまずここから始めてみるのが良いでしょう。

世の中がどうなっていたら良いかを考える

鈴木さんが考える理想の仮説を活かした営業とは何ですか?

freeeでは、自分達らしい行動や価値判断ができるようにマジ価値という指針を5つ設定しています。その中の1つに理想ドリブンというキーワードがあります。この理想ドリブンと対比する言葉として、リソースドリブンという言葉があります。

リソースドリブンというのは、例えば、部署に営業が3人いるとします。3人が1日3件訪問を20日間の間にしましょうと計画した場合、60件×3人なので180件訪問出来そうだということになります。じゃあ、その180件をどのように実現していくのか、というように計画を立てると思います。

ですがこの場合、3人で訪問180件をどのように実現していくかといった内に閉じた考えしか出てこない。

なので、一度3人でどれくらいできるかといった制限を取っ払い、自分達が実現すべき理想としてはどうあるべきなのかを出発点に考えてみる。その理想のためには300件提案が必要だとわかる。じゃあ訪問以外の方法や人数を増やせないか考えようという「理想ドリブン」で考えるべきだと思っています。

世の中の企業はリソースドリブンで考えていることが多いのですが、これからの営業に求められることは、客観的に顧客が実現すべきことはどんな理想なのかを想定して、本当に価値のある提案を行うことに尽きると思います。

まとめ

営業が仮説を活かした提案をすることで顧客の理想を実現する客観的な提案が可能になります。そして、その結果が営業の生産性をアップさせることにつながります。是非、鈴木さんの提案するステップに基づき仮説思考力を活かした営業にチャレンジしてみてください。

鈴木眞理さんのTwitterアカウントはこちら

関連記事

とは?

初めて営業マンを目指す人々を応援する、営業職に特化した就業支援プロジェクトです。異業種からの転職など、バックボーンに捉われることなく、営業に興味を持っていたり、営業を目指そうと考えている人々の、キャリア形成を全力でサポート致します。

最近の記事

ランキング

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。